医学部再受験・学士編入blog by シマ(東工大卒脱サラ医大生)

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【医学部勉強シリーズ】寄生虫の病原性と感染疫学【寄生虫学:総論第2回】

寄生虫の生活史、感染経路、感染疫学的意義について整理する。

<目次>

寄生虫の感染

1)寄生虫の感染源

感染源は以下の3つである。

  • 患者:寄生虫に感染し、何らかの症状を発して医療の対象となる者のことである。
  • 保虫者:寄生虫に感染しているが症状を示していない者のことである。
  • 保虫宿主:人体寄生虫保有しているヒト以外の固有宿主のことである。

2)感染型

寄生虫の生活環においてヒトに感染性を持つ形態や発育ステージは限られている。各寄生虫とヒトに感染できる発育ステージの関係性をまとめる。なお以下では寄生虫と発育ステージにアルファベットを付与し整理する。

<発育ステージ>---<寄生虫>

  • A:虫卵(幼虫形成卵、幼虫包蔵卵)---回虫、蟯虫
  • B:幼虫(感染型幼虫)---鉤虫、糞線虫
  • C:セルカリア---住血吸虫
  • D:メタセルカリア---肺吸虫、横川吸虫
  • E:ブレロセルコイド---裂頭条虫
  • F:嚢虫---無鉤条虫
  • G:嚢子(シスト)---赤痢アメーバ、ジアルジア
  • H:スポロゾイド---マラリア原虫
  • I:オーシスト---クリプトスポリジウム
A:回虫の生活環

幼虫形成卵が経口感染することから始まる。小腸で孵化した幼虫は小腸壁から門脈経由で肝臓に向かう。その後心臓から肺に移動する。肺胞から気管支、気管と上行した後に嚥下されて再び小腸に達して成虫になる。虫卵経口感染後2〜3ヶ月で成虫になる。小腸に寄生し寿命は1〜2年である。成虫は受精卵を作り便と共に排泄される。受精卵の時点では感染性を持たないが、幼虫形成卵まで成熟すると感染性を持ち手指や塵や野菜を経由してヒトに経口感染する。

B:鉤虫の生活環

感染幼虫が体内に侵入する経路は主に2つである。ズビニ鉤虫は経口感染が主であり、アメリカ鉤虫は経皮感染が主である。体内で成虫になるまでに約2ヶ月かかる。

C:日本住血吸虫の生活環

中間宿主はミヤイリガイである。虫卵から孵化したミラシジウムがミヤイリガイに侵入してセルカリアになる。セルカリアが経皮感染することによって日本住血吸虫はヒトに感染する。雌雄異体であり、成虫は門脈から腸管膜静脈に寄生する。寿命は3〜6年である。

D:横川吸虫の生活環

ヒトの便に混じって卵が排出され第一中間宿主に寄生する。そこで幼生生殖※をする。その後、第二中間宿主に寄生しメタセルカリアとなる。メタセルカリアが終宿主であるヒトに経口感染することで横川吸虫は感染する。生アユなどを食べることにより経口感染する。横川吸虫は雌雄同体である。

※幼生生殖とは産出された卵が単為生殖的に発生することである。単為生殖とは雌雄片方の個体のみで子孫を作りだす生殖のことである。

E:日本海裂頭条虫の生活環

虫卵がヒトなどの便から排泄された後に第一中間宿主であるケンミジンコに寄生する。その後、第二中間宿主であるサクラマスカラフトマスに寄生しプレロセルコイドになる。プレルセルコイドを含むマスの鮨や刺身を食べることで終宿主であるヒトに感染する。クマなども終宿主になり得る。

F:無鉤条虫の生活環

中間宿主は牛であり、筋肉内に無鉤嚢虫が存在する。生の牛肉、つまり生焼けの牛ステーキやユッケ、牛刺しを食べることにより嚢虫が終宿主であるヒトに感染する。終宿主はヒトのみである。

G:赤痢アメーバの生活環

成熟嚢子(シスト)を経口摂取することでヒトに感染する。大腸に寄生し、栄養型※の赤痢アメーバは二分裂で増殖する。

赤痢アメーバは「栄養型」と呼ばれる活動型と、「嚢子(シスト)」と呼ばれる休眠状態の2つの型が存在する。

H:マラリア原虫の生活環

スポロゾイトの状態においてマラリア原虫はヒトに感染し、生殖を行う。蚊の体内においては両性生殖、つまり有性生殖を行う。一方でヒトの体内では無性生殖で多数分裂を行う。

I:クリプトスポリジウムの生活環

オーシストの状態で経口摂取することによってクリプトスポリジウムはヒトなどに感染する。宿主はヒトのみではなくヤギなどの保虫宿主も存在する。体内でスポロゾイトの状態に変化し、小腸粘膜微絨毛内に寄生する。無性生殖や有性生殖を行う。

3)感染経路

感染経路は主に以下の4つである。

J:トキソプラズマの生活環

終宿主はネコ科動物であり、終宿主の腸管内でトキソプラズマ有性生殖を行う。オーシストの状態で終宿主から便と共に排泄され、そのオーシストがヒトの口から入る。その後、タキゾイドという急増虫体となりマクロファージ内で無性生殖を行う。マラブラディゾイドという緩増虫体となり筋肉内や脳内で緩やかに増殖する。また胎盤を通して胎児に感染する、いわゆる経胎盤感染が起きる。

K:膣トリコモナスの生活環

膣や前立腺尿道に感染する。栄養型の膣トリコモナスのみ二分裂で増殖する。(女性は症状が現れやすいが男性は無症状であることも多い。性行為により感染する。)

4)伝播

  • 直接伝播:ヒトからヒトに感染する。膣トリコモナスや蟯虫などがこれに当てはまる。
  • 間接伝播:何かを介して感染が広がる。伝播者が関係する機械的伝播と、媒介者(ベクター)や中間宿主が関係する生物学的伝播がある。

5)人獣共通感染症

人獣共通感染症とは脊椎動物とヒトの間で自然に感染する感染症のことである。主な人獣共通寄生虫症は以下の通りである。なおカッコ内は終宿主、もしくは宿主である。

  • 原虫---リーシュマニア症(イヌなど)、トキソプラズマ症(J)(ネコなど)
  • 線虫---旋毛虫症(クマなど)、アニサキス症(イルカなど)
  • 吸虫---日本住血吸虫症(C)(ネコなど)、肺吸虫症(D)(イヌなど)
  • 条虫---エキノコックス症(L)(キツネなど)、無鉤条虫(F)(ウシ)※

※ウシは中間宿主であり終宿主はヒトである。

L:エキノコックスの生活環
  • 単包条虫の場合:終宿主はイヌ、オオカミである。ヒトは中間宿主であり虫卵を経口摂取することで感染する。主に肝臓に寄生し嚢腫形成する。
  • 多包条虫の場合:終宿主はキツネ、イヌである。その他については単包条虫の場合と同様である。

6)浸淫的発生と流行的発生

  • 浸淫的発生:ある感染症が一地域において常時発生している状態である。地方病や風土病ともいう。中間宿主やベクターがその地域に分布している。
  • 流行的発生:ある感染症が、ある地域またはある時期に異常に発生すること。世界的流行(パンデミック)もこれに含まれる。

7)新興・再興感染症としての寄生虫

感染症法では以下のように感染症が分類されている。

8)Neglected Tropical Disease(NTDs)としての寄生虫

WHOは20の疾患群を顧みられない熱帯病(NTDs)としている。つまりこれらは人類の中で制圧しなければならない感染症である。このうち13疾患群(7〜17、19、20)が寄生虫と衛生動物による疾患である。

  1. デング熱チクングニア熱
  2. 狂犬病
  3. トラコーマ
  4. ブルーリ潰瘍
  5. フランベジア(風土性トレポネーマ症)
  6. ハンセン病
  7. シャーガス病
  8. ヒトアフリカトリパノソーマ(睡眠病)
  9. リーシュマニア症
  10. 条虫症/嚢虫症
  11. メジナ虫症(ギニア虫症)
  12. エキノコックス症(包虫症)
  13. 植物由来吸虫感染症
  14. リンパ系フィラリア
  15. オンコセルカ症(河川盲目症)
  16. 住血吸虫症
  17. 土壌伝播性蠕虫感染症
  18. マイセトーマ、深在性真菌症
  19. 疥癬と外部寄生虫症※疥:マラリアなどの意味を持つ漢字
  20. 毒蛇咬症

DALY(Disability Adjusted Life Years、障害調整生命年)とは各種疾患による生命の損失や障害を単に死亡件数・患者発生数・生命短縮(YLL:Years Life Lost)だけではなく、それ以外の苦痛や障害(YLD:Years Lived with Disability)も含めて定量化したものである。NTDsはDALYが大きく撲滅が必要であると言える。

寄生虫の病原性と病理・病態

1)物理的(機械的)機序

原虫は増殖し、蠕虫は発育することで物理的機序を起こす。以下のようなことが起きる。

  • 細胞内寄生原虫であるマラリア原虫による赤血球の破壊
  • 幼虫の体内移行による組織破壊
  • 鉤虫の咬着による失血、またこれに起因する鉄欠乏性貧血
  • 多数の回虫の寄生による腸閉塞、回虫の胆管迷入による閉塞性黄疸

2)化学的(生理的)機序

赤痢アメーバ(G)のタンパク質分解酵素による組織妖怪が起こる。アメーバ性肝膿瘍などが起こる。

3)アレルギー性の機序

Cooms分類で整理する。

I型(即時型、IgEによる)

寄生虫抗原に対するIgEがレセプターを介してマスト細胞に結合する。抗原が結合することでマスト細胞が活性化し伝達物質が放出され臨床効果が発揮される。以下のような例が挙げられる。

  • 鉤虫(B)の感染幼虫や住血吸虫(C)のセルカリアによるセルカリア性皮膚炎
  • 回虫(A)、線状虫、、鉤虫(B)、好酸球の増多を呈する肺炎症状(レフラー症候群、熱帯性好酸球増多症)
  • ミツバ氏の反復刺咬によるアナフィラキシーショック
  • 室内塵ヒョウヒダニ(とその排泄物)によるアレルギー性気管支喘息
II型(細胞溶解型、細胞障害型、IgGによる)

マラリア(H)における非感染赤血球の溶血が起きる。寄生虫抗原が抗体に吸着して、補体も働き、食細胞によりADCC(抗体依存性細胞障害)が起きる。

Ⅲ型(免疫複合体、IgGによる)

四日熱マラリア(H)による腎炎がある。抗原・抗体の複合体が糸球体基底膜に付着し、補体が活性化して好中球が集積する。ライソソーム酵素が放出され周囲組織が傷害される。

Ⅳ型(遅延型、T細胞による)

住血吸虫症(C)の虫卵結節形成などがある。T細胞からサイトカインが放出され、マクロファージが活性化され集積し、肉芽腫が形成され繊維化も起きる。

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